心臓外科手術(開心術) あいはら犬猫病院では、犬の循環器科において、国内でも稀な心臓外科手術を実施しています。特に、心臓を一度止めて開心術を行い、僧帽弁閉鎖不全症(MR)を治療する手術を提供しております。
僧帽弁形成術(Mitral Valve Plasty)
僧帽弁閉鎖不全症は犬の心臓病の80%以上を占める一般的な病気です。これまでは薬物による内科的治療が中心でしたが、当院では僧帽弁の修復術(腱索再建術と弁輪縫縮術の組み合わせ)を行うことで根治治療を目指しています。
手術の流れ
- 麻酔導入
- 開胸
- ヘパリン化
- 人工心肺を用いて体外循環を開始
- 心臓を一時停止
- 腱索再建術:断裂や延長した腱索をePTFE糸で再建、補強する
- 弁輪縫縮術:広がった弁輪を縫縮、僧帽弁の接合面積を増加させる
- 逆流の確認
- 心臓の再始動
- プロタミンによるヘパリン化を解除
- 閉胸
- 覚醒
- ICUへ移動
術後の経過は、術後僧帽弁の逆流が大幅に減少または消失することで、心臓への負担が軽減され心サイズが縮小します。利尿薬は必要なくなり、ほとんどの患者では1ヶ月以内に循環器系の投薬は不要となります。
術後3ヶ月までは、人工物による血栓のリスクがあるため抗血栓治療が必要ですが、以降は状態により減薬もしくは休薬します。
手術前の検査
手術を安全に行うために、手術前には詳細な検査を実施します。検査項目は以下であり、一例であり症例に応じて変更します。
身体検査 | 体重、BCS評価、筋肉量、呼吸状態など |
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血液・血液化学検査 | 貧血の有無や血小板、内臓機能の確認 |
凝固機能検査 | 手術時の出血リスクや血液疾患の確認 |
心電図 | 手術をするにあたり、リスクとなる不整脈の確認 |
レントゲン | 心サイズの確認、肺や気管など呼吸器の状態の確認 |
腹部エコー検査 | 肝臓、胆嚢、脾臓、腎臓など腹部臓器に明らかな異常がないかを確認 |
心エコー図検査 | 心拡大や逆流量、弁の状態の確認、オペをするにあたり把握すべき血管異常の確認 、手術計画のため状態把握を行います |
手術適応
僧帽弁閉鎖不全症の他にも、以下の疾患に対する手術を行っています。
- 肺動脈狭窄症
- 心室中隔欠損症
- 心臓腫瘍 など
入院と術後管理
手術の前日に入院し、手術当日は24時間体制で管理を行います。退院は術後7〜14日程度が目安ですが、患者さんの状態により変更することがあります。術後は定期的な検診が必要です。
費用
手術前検査 | 4〜5万円 |
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手術・入院 | 170〜180万円 |
術後検診 | 4〜5万円(1、2か月目)、2〜2.5万円(3、6、12、24か月目) |
お問い合わせ
手術をご希望の方は、まずは当院循環器科にご相談ください。詳細な説明や個別の状況に応じた最善の治療方法をご提案いたします。メールでのお問い合わせも受け付けております。
また当院循環器科では、体外循環下の手術のみならず咳や発作、呼吸が早いといった症状の精査や治療、不整脈や先天的な心疾患の診断や治療に関するご相談やご質問もお受けしていますので、お気軽にお問い合わせください。
人工心肺(CPB : CardioPulmonary Bypass)を用いた手術
人工心肺とは、循環停止下において動物の循環(血液を運搬し、体に酸素を送る)を動物の体にかわり循環を維持する体外循環装置を用いる手術です。心停止中の血液循環は下の図に示します。
人工心肺中の血液の流れ
1.患者の静脈から血液を回収し、リザーバーで一時的に血液を貯め必要に応じて血液の希釈を行います。人工肺に血液を送り血液に酸素を添加します。
2.メインポンプから酸素化された血液を全身に送ります。
3.希釈された血液を血液浄化装置、ダイアライザーで濃縮し余分な水を除去します。同時に、体に溜まっている尿素窒素や心停止に用いられた余分なカリウムなどを除去します。その後、患者の体に血液を戻します。
人工心肺を確立するまでの流れ
ヘパリンという血液の凝固を防ぐ(血栓を抑制する)薬物を用いて、患者の頚部の動脈と静脈にカテーテルを留置し、患者から血液を回収する経路と回収した血液を患者に戻す経路を設置します。
心臓が動いた状態での対外循環を部分対外循環と言います。部分対外循環は、心臓手術を開始するまでの補助心臓の役割を果たします。
部分対外循環開始後は、心停止させる心筋保護液を流すルートを大動脈に設置し、このルートから心筋保護液を流し、心臓の拍動を停止させ完全対外循環を確立します。
人工心肺を用いることで、心臓の拍動が停止した状態での手術が可能となります。